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columnアートコラム

2020.10.12

モンマルトル美術館



パリで最も高い丘にあるモンマルトルには、通常のパリとは違う独特の雰囲気がある。確かにサクレクール寺院の周辺は観光客で賑わうが、そこから一歩離れた裏通りには田舎の風情が残っており、何かほっとできるものがある。

モンマルトルがパリに併合されたのは1860年になってからであり、物価が安かったこともあり、ボヘミアンの芸術家が集まり、アトリエを構えた。今でも数多くのアトリエが残っている。ピカソ、ブラックはじめ綺羅星のような画家の溜まり場になった『洗濯船』(バトー・ラヴォワール)は、今でこそ伝説になっているが、20世紀初頭には、がたびし揺れるおんぼろの集合アトリエ住宅にすぎなかった。1970年に一度は火災で焼失したが、その後再建されて現在もアトリエとして使用されている。


ルノワール庭園 ©️ Musée de Montmartre

さて、コルトー通りにある現在モンマルトル美術館になっている建物は、19世紀に多くの画家が足跡を残した場所でもある。中でもルノワールがここで、『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』を始め、数々の有名な作品を手がけた。中庭は彼の数点の絵画にインスピレーションを得て改修され、『ルノワール庭園』と名付けられている。またシュザンヌ・ヴァラドンと息子ユトリロが長く暮らした場所でもあり、館内にはヴァラドンのアトリエとユトリロの部屋が再現されている。奥のブドウ畑に隣接する建物は17世紀築、モンマルトルで一番古い邸宅である。モンマルトルの歴史に因む数々のテーマによる常設展になっている。

コルトー通りのメインの建物は、モンマルトルと所縁のある芸術家の企画展にあてられている。現在の展覧会は、抽象画のパイオニアの一人でありながら、一般にはほとんど知られていないオットー・フロイントリッヒの珠玉の回顧展だ。フロイントリッヒはプロテスタントに改宗した、ドイツのユダヤ人家庭に1878年に生まれた。
最初は装飾的な具象画を制作していたが、1908年に数か月洗濯船にアトリエを借り、ピカソ、ブラックとも親交を持ち、彼等のキュビズムとは異なる、独自の抽象化の道を進む。その後ドイツとパリを往還しながら制作を展開し、1911年モンマルトルの別のアトリエを借り、そこで最初の抽象画の大作『コンポジション』を手がけた。斬新な色彩でまろやかなラインからなる幾何学模様で構成されている抽象画であるが、この元になったのは、7人の身体が描かれたデッサンである。


最初の大作 composition 1911年作 ©Xavier Ferrand, Musée de Montmartre
 
特筆されるのは、この抽象化への探求を彫刻においても展開し、同展でも抽象的なフォルムが交差する建築的な彫刻が展示されている。

展覧会は年代順に彼の足跡を追って展開するが、1914年でのシャルトル大聖堂のステンドグラスの修復アトリエでの経験は重要な意味を持つ。セザンヌとゴッホから触発され、スピリチュアルなものへの探求を色彩と幾何学模様で表現していく。20年代には宇宙空間(コスモス)を想起させる、色彩を実験的に構成した作品を手がけている。
1930年代にはナチから『退廃芸術』の烙印が押されたが、平和主義者で人種差別に反対する作品も残している。1942年ピレネーの小村の農家に隠れていたところ、隣人の告発で強制収容所に送られて翌年亡くなっている。

ドイツの美術館に収蔵されていた作品がナチに破壊されたので、残っている作品から構成された貴重な展覧会である。美しい色彩のコンポジションは、抽象画に興味を持たない人でも魅了されるに違いない。

新型コロナの影響で来年1月末まで延期されたので、是非見ていただきたい。


右2点 1927年作©Xavier Ferrand, Musée de Montmartre.


左 Rosace(バラ窓)1938年作 ©Xavier Ferrand, Musée de Montmartre
 

MUSÉE DE MONTMARTRE

公式サイトはコチラ
 

執筆者


林 正和   Masakazu Hayashi
パリガイド通訳サービス主宰

大阪生まれ。パリ在住あしかけ36年、東京外国語大学卒業、マスコミ関係の仕事を経て パリ第三(ヌーヴェル・ソルボンヌ)大学で博士号取得。
現在美術館および観光ガイド、通訳、コーディネートを幅広く手がける。
フランス政府公認ガイドライセンス有

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