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columnアートコラム

2021.06.15

パリの新美術館、ブルス・ド・コメルス

実業家のピノーの現代アートコレクション

Photo : ©パリガイド通訳サービス

半年以上閉館されていた美術館が5月19日からパリでは一斉に再館したが、中でも話題を集めたのはブルス・ド・コメルスのオープニングだ。パリの新スポットとして脚光を浴びている。
 
なにしろ、フランソワ・ピノーがパリに美術館を設けることが決定してから10年以上、パリ西郊スガン島から、このレ・アール地区に接するパリ中心地に変更になってからも5年以上の歳月が経っている。建物の源は16世紀に遡り、1766年に穀物取引場として建て替えられた後、1880年代に商品取引所として再建された歴史的建造物。ピノーから絶大な信頼を寄せられて設計を任された安藤忠雄は、巨大な吹き抜けの円形ホールに円筒状のコンクリート壁を設け、地上4階建ての内部に弧を描くような形で、10の展示室を設けた。
 
ガラスの丸天井のすぐ下を囲む19世紀の天井画はフレスコ画ではなく張り付け画であるが、今回修復されて蘇った。商品取引所に相応しい交易というテーマで、4大陸が異国情緒のリアリズムたっぷり描かれている。
その下の巨大な空間に、オープニングを飾る特別展として展示されているのは、スイス人NY在住ウルス・フィッシャーのインスタレーション。中央にあるのはフィレンツェにあるルネサンス期の『サビニの女たちの略奪』のレプリカ。大理石のように見えるがロウで作られ、周りに配されている多様な椅子もロウでできており、よく見ると全て芯があり、展示中火が毎朝灯されて徐々に溶けていく。日々変容していくのを見せつけるという趣向であるが、最後には溶け崩れたロウだけが残ることになり、時間の経過の中で人間の虚栄心を浮き彫りにし、無常、創造的破壊を表現したという。


天井画とウルス・フィッシャーのインスタレーション Photo : ©パリガイド通訳サービス
 
インスタレーションのクローズアップ
© Urs Fischer
Courtesy Galerie Eva Presenhuber, Zurich.
Photo : Stefan Altenburger
Others, 2018
現代アートのスター、マウリツィオ・カテランが手がけた
ユーモアたっぷりのトロンプルイユの鳩 
©Maurizio Cattelan  Photo : Marc Domage

その円形ホールをとりまくパッサージュには、元々あった陳列ケースを使って、仏のベルトラン・ラヴィエは現代消費社会をアイロニカルに見た24のオブジェを展示している。
 
ラヴィエのインスタレーションがあるパッサージュ
Photo : ©パリガイド通訳サービス
ラヴィエのインスタレーションの一つ  
©Bertrand Lavier/ ADAGP, Paris, 2021  Photo : Aurélien Mole

さて、最初の展示室はピノーが30年以上にわたってコレクションしているデヴィッド・ハモンズに捧げられている。ハモンズはアフロ(アフリカ系)アメリカ人77歳で、仏でまとまった形で紹介されているのは今回初めてだ。1970年代の作品から現代に到るまで35点のドローイング、彫刻、オブジェ、インスタレーションが一同に会する。一貫して廃品や廃材を使い、人種問題や社会的、政治的なメッセージ性の強い作品で知られる。しかも美術史への引用豊かで、多義的な意味を醸し出す作品が多い。自分の体にマーガリンと黒粉を混ぜてキャンバスに刻印したボディ・プリンツシリーズはイブ・クラインを想起させるが、クリムト『愛撫』のブラック版といえる作品が展示されている。その他廃品によって制作し、デュシャン、マレヴィッチ、ブランクージを彷彿とさせる作品は同時に疎外された黒人のアイデンティーを表象する。
 
ハモンズ High level of Cats, 1998
3つのタンブリンと剥製の猫によるインスタレーション。
黒人が生み出したジャズの名曲を表現したらしい
© David Hammons  Photo ; Aurélien Mole
ハモンズ クリムトを引用した The Embrace 愛撫, 1974-75  
© David Hammons
ハモンズ Rubber Dread, 1989
自転車のタイヤを使って黒人を表象したようだ。
A Cry from the Inside, 1969
金粉のボディ・プリンツ。ムンクの『叫び』を引用
©David Hammons  Photo : Aurélien Mole
ハモンズ  Untitled, 2000 
黒人選手が多いバスケットのリングをアイロニカルに表現したようだ。
©David Hammons  Photo : Aurélien Mole

3階のフロアーには他の10人以上の現代アーティストの絵画作品中心に並ぶ。中でも今きらめくピーター・ドイグやブラジルのアントニオ・オバやスイスのミリアム・カーンなど夢や幻覚的なテーマの作品が目立つ。円形ホールの為、どこにいるかわからなくなり、いつのまにか始めの展示室に戻っているというのが面白い。
2階は写真ギャラリー、そして地下には音楽をテーマにした二つのインスタレーションがあり、最上階には3つ星シェフの指揮するレストラン・カフェがある。


2階写真ギャラリー   Photo : Aurélien Mole 
 
ピーター・ドイグ  Red Canoe  
© Peter Doig /ADAGP, Paris, 2020
© Christie’s Images Limited 2013

ピーター・ドイグ  Bather (Night Wave) 2019
Photo : ©パリガイド通訳サービス
 
グッチやサンローランなどを傘下に収める大富豪フランソワ・ピノーはルイ・ヴィトンなど同じく高級ブランドを手中に収めているベルナール・アルノーとは長年ライバルであり、両者ともアートに熱をあげ対抗している。ピノーは既にヴェネチアに自分の蒐集品を展示する二つのスペースを持っているが、このパリの私立美術館が公開になって長年の夢が実現したといえよう。ピノーの1万点以上のコレクションから今後どのような作品が展示されるか、興味津々だ。
 
3階フロアー、ミリアム・カーン
© Miriam Cah  Photo : Aurélien Mole 

アントニア・オバ Eucalipto- corpo eletrico
© Antonio Oba  Photo ; Bruno Leão
   
Bourse de Commerce, 2 rue de Viarmes,
11-19時まで(火閉館、金21時まで)
www.pinaultcollection.com
 

執筆者


林 正和   Masakazu Hayashi
パリガイド通訳サービス主宰

大阪生まれ。パリ在住あしかけ36年、東京外国語大学卒業、マスコミ関係の仕事を経て パリ第三(ヌーヴェル・ソルボンヌ)大学で博士号取得。
現在美術館および観光ガイド、通訳、コーディネートを幅広く手がける。
フランス政府公認ガイドライセンス有

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