マクロン仏大統領は7月10日、国賓待遇での英国の公式訪問を終えた。英仏両国は10日、懸案の国防と移民問題に関する合意を発表した。
国防問題では、両国が核抑止力について「協調」して対応する旨を取り決めた「ノースウッド宣言」が採択された。欧州に極度の脅威が生じた場合に、欧州における核抑止力の保有国である英仏両国が協調して対応することを初めて取り決めた。ロシアの脅威を念頭に置き、欧州防衛に対する協力について米トランプ政権に揺らぎがあることを踏まえた合意とみることができる。両国は、核抑止力の行使の決定がそれぞれの国家主権に属することを確認しつつ、協力体制を確立することを約束。仏大統領府筋によると、仏大統領府と英内閣が共同議長を務める「核運営グループ」が設置される。核兵器の研究事業を含めて両国間の協力が図られる。
核兵器とは別に、両国はこの機会に、ミサイル共同開発計画の加速についても合意。英仏など欧州諸国が出資するMBDA社による開発計画を加速する。英仏空軍の機材の相互運用可能性を高めることでも合意した。また、2010年に創設の外国派遣の共同部隊CJEFについて、その規模を現在の数千人から数万人へと拡大することも取り決めた。
これとは別に、移民問題では、前例のない内容の合意が結ばれた。英国への渡航を希望する不法移民が欧州全体を経由してフランスに集まり、海峡を経由して不法渡航を企てるケースが後を絶たず、この問題は英国とフランスなど欧州側の対立点の一つとなっていた。今回の合意では、1週間に50人を限度として、英国に不法渡航した者の再入国をフランス側が受け入れることを約束。英国政府はその見返りに、英国への正規入国の条件を満たす者を同数だけ受け入れることに応じた。スターマー首相はこの合意を「試験的」と形容。不法渡航の抑止効果があるかを見極めることが目的だと説明している。
フランスの治安当局は最近になり、英国に向けて出発するゴムボートを水際数メートルまでの範囲で破壊し、不法渡航を抑止するという対策に着手。英国側でこれは、フランス当局が本腰を入れたものとして報じられ、歓迎されていた。フランス側は今回の合意で、英国がこれまで強く拒んできた不法移民の受け入れを、1対1交換という条件付きで認めさせたことになる。