フランス情報メディアのET TOI(エトワ)

フランスと日本をつなぐ

1€=

新規登録

「ない」の時代のレストラン

見渡す限りわけがわからないリルケの「ドゥイノの悲歌」の第8歌に、「否定のないどこでもないもありはしない」(niemals Nirgends ohne Nicht)という文句がある。ざっくり解釈すれば、否定の契機が含まれていないネバーランド、つまり、ネバーランドからネバーを取ったようなものという意味であろう。どこにもなくはなくなった夢の国、という感じだろうか。

この「ない」というのは、今や商品価値の高い売り文句である。外食業界でもキラーコンテンツがこの「ない」である。フードサービスビジョン(コンサル)の2024年末時点の集計によると、独立系レストランの9割が、肉のないベジタリアンメニューを用意している。「ない」がない店はありえない時代になった。アラン・パサールの3ツ星レストラン「ラルページュ」は、この7月21日より食肉、魚、乳製品、卵をすべて排除。このクラスのレストランとしてはフランスで初めての試みだという。ファーストフードでも、全廃はさすがにないが対応が広がっている。KFCは仏La Vie(代替肉)と提携して、「コロネル・バーガー」などのベジタリアン版を投入しており、現在は販売の1割を占めているという。もちろんアルコール飲料も「ない」のワンダーランドである。オピニオンウェイの調べによると、レストランの4割が、商品多角化の一環としてノンアルコールを組み入れている。

ジョン・レノンが「イマジン」で追放したのは、天国と国家、そして宗教だった。肉がなく、酒がなく、ついでに勘定書きもないレストランを想像してごらん。君は私を夢見る人というかもしれない。でも私は一人ではない。いえ、これは私の言葉ではありません、ジョン・レノンが言ったのです。

KSM News and Research