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ルコルニュ首相が辞任、今後の政局はどうなる

ルコルニュ首相は10月6日朝に、マクロン大統領に辞表を提出した。マクロン大統領はこれを受理した。9月9日の首相指名からわずか27日後のスピード辞任となった。

首相は5日に組閣人事を終え、閣僚名簿が同日午後に発表されたばかりだった。内閣の顔ぶれは留任が3分の2を占めていたが、入閣者の中に、ルメール元経済相が軍隊相として含まれていたことに、政府に協力する共和党(保守)が反発。ルメール氏は、もとは共和党所属だったが、マクロン政権に発足時から合流しており、共和党内には同氏に批判的な空気がある。経済相として財政赤字と公的債務残高の膨張を招いた張本人だと糾弾する声もあった。共和党内部には、内閣への参加を継続することを望む勢力(党首であるルタイヨー内相ら)と、マクロン政権からの離脱を求める勢力(ボキエ下院議員団団長ら)があり、後者の勢力が、ルメール氏の人選を口実に揺さぶりをかけていた。ルコルニュ首相は、共和党の協力を失って退陣に追い込まれるより前に、先手を打って辞任を選んだものと考えられる。

首相は6日朝に短い声明文を読み上げて辞任の理由を説明。首相はこの中で、首相を務める条件が整っていないと言明。労使などと協議を進めて妥協点を探る努力をしてきたが、各政治勢力はいずれも、自らが議会で多数派を擁しているかのように行動し、自らの要求について譲歩しようとはしなかったと述べて、辞任を決意した理由とした。首相はその上で、あと少しで合意することができたはずだと述べて、2027年(の次回大統領選挙)前に実現すべきことがあるとし、党派よりも国のことを重んじて、エゴを捨てて妥協に応じるよう、各政治勢力に対して呼びかけた。

ルコルニュ首相の辞任を受けて、左翼政党LFI(不服従のフランス)からは、マクロン大統領に責任があるとして、その辞任と大統領選挙の実施を要求する声が上がっている。極右政党RNを率いるマリーヌ・ルペン下院議員団団長は事態を収拾するには解散総選挙以外にはないと言明した。共和党のベラミ副党首も、「総選挙を恐れない」と言明しつつ、マクロン大統領が解散総選挙に追い込まれたとしても、責任は共和党にはないと主張した。パニエリュナシェ・エコロジー相は、「皆に責任があるのに、誰も責任を持とうとしない」状況だと非難し、左派を抜きにした政局運営ができないことを理解すべきだと言明した。

LFIは左派勢力の各党に対して、6日午後に会合を開いて今後の対応を協議するよう呼びかけた。ルコルニュ首相は6日午後に、昨日指名されたばかりの内閣の閣僚らと早くも最後の会合を開く。首相と閣僚らは後任が決まるまで職務執行を継続する。今後の事態の展開は、マクロン大統領がどのような決定を下すかにかかっている。大統領はこれまで、辞任と解散のいずれも行わない方針を確認してきた。

▽公表されたルコルニュ内閣の閣僚名簿

ムーラン大統領府長官は10月5日午後、ルコルニュ内閣の閣僚名簿を公表した。ルコルニュ首相の辞任により、一度も閣議が招集されないまま職務執行内閣へと移行した。

主要閣僚のほとんどはバイルー前内閣から残留した。5日に公表されたのは大臣格の18人の名簿だが、女性が9人で男女同数を守り、新任は6人で、3分の1が入れ替えとなった。

主要閣僚はほとんどが残留した。ボルヌ教育相、バルス海外相、ダルマナン法相、ルタイヨー内相、ボートラン労相、ダティ文化相、バロ外相、パニエリュナシェ・エコロジー移行相、ジュヌバール農相、ドモンシャラン予算相、タバロ運輸相、ベルジェ男女平等相はいずれも留任。ベルジェ男女平等相は政府報道官を兼務。入閣者は、ルメール軍隊相、レスキュール経済相、ブルト国土整備・地方分権・住宅相、ムチュー公職改革・AI・デジタル相、フェラーリ・スポーツ・若年・アソシエーション相、ルフェーブル国会関係相の6人。ルメール軍隊相は、マクロン政権下で長年にわたり経済相を務めた。レスキュール経済相は、2022年から2024年9月まで産業・エネルギー相を務めた。フェラーリ・スポーツ相は、アタル内閣とバルニエ内閣でデジタル相や観光相を歴任した。いずれも出戻り組ということになる。ブルト国土整備相はサルコジ保守政権下で予算相などを歴任した人物で、先のリビア資金事件の裁判でもサルコジ元大統領と共に起訴されていたが、無罪判決を得ており、禊を済ませたという扱いで閣僚への登用となる。ムチュー公職改革相は、フィリップ元首相が率いる右派政党オリゾン所属。ルフェーブル国会関係相はマクロン大統領のルネサンス党所属。いずれも初入閣となった。

▽首相が約束した「49.3」の不使用

ルコルニュ首相は10月3日朝、予算法案の採択において「49.3」を発動しないと発表した。野党側に重要な譲歩を示す内容だったが、辞任を避けることはできなかった。

「49.3」は、憲法上の条文の番号によりこの名で呼ばれている。法案の国会審議において、政府が49.3の発動を宣言すると、審議は終了して採決を経ずに法案は採択される。ただし、内閣不信任案が提出され、採択されると、法案の採択は白紙に戻される。マクロン政権は、下院で過半数を失って以来、予算法案を常に「49.3」を利用して採択していた。「49.3」の不使用は、社会党が要求していたものであり、社会党は首相の発表を歓迎したが、社会党を含めて、いずれの政治勢力もそれだけでは不十分という姿勢を示していた。

KSM News and Research