9月から欧州の複数の国に所属不明のドローンが飛来し、空港が一時閉鎖されて航空便が混乱するなどの事態が頻発している。ロシアが背後で介在しているとの見方が有力だが、関連諸国の対応は足並みが揃っていない。ポーランドのトゥスク首相やデンマークのフレデリクセン首相はロシアが欧州の安全保障に及ぼす脅威を強調し、ロシアが仕掛けるハイブリッド攻撃に北大西洋条約機構(NATO)諸国が結束して立ち向かうことを呼びかけているが、これらの国でも左派勢力などからはロシアとの緊張がエスカレートすることを警戒してロシアを挑発するような発言だと批判する声も聞かれる。
ドイツでは、10月はじめに、ミュンヘン・オクトーバーフェスト(ビール祭り)が開催中で、ドイツ再統一35周年を控えるというタイミングで、ミュンヘン空港がドローン飛来により一時閉鎖されるという事態が発生したが、政界の対応は一致していない。メルツ首相は9月末の時点で「ドイツは戦争をしていないが最早平和でもない」と危機感を表明。首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)の姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)のゼーダー・バイエルン州首相などはドローンを即座に迎撃することをドイツ軍に求めているが、平和主義の立場をとる社民党のピストリウス国防相は「ドイツは戦争をしていない」と慎重な構えを見せている。第二次世界大戦の反省と罪悪感が重いドイツでは、「戦争」という言葉がタブー視され、ドイツ軍も「国防」や「レジリエンス」などの用語を優先している。専門家は10年以上前からロシアが多様な攻撃を仕掛けているのに、ドイツ国民の多くはそれに気づかず、ロシアの危険性を認めようとしないと指摘している。
ドイツと同時期にベルギーでも空軍基地上空にドローンが出現した。フランケン国防相はロシアを正面からは批判しないものの、ロシアが関与している可能性を指摘し、国民のパニックを招くことは避けたいが、言うべきことは言わざるをえないとコメント。ベルギー軍のバンシナ参謀総長は、ウクライナでの戦争が続く間はロシアによる正面攻撃はないが、ロシア軍の能力拡大に備える必要があるとし、2030年にはロシアと西欧の間で紛争が起きる可能性に言及している。
フランスは今のところ未確認ドローン飛来の被害を受けていない。マクロン大統領はロシアとの「恒常的対決」をテロリズムと並ぶ「欧州にとっての最大の構造的脅威」と位置づけているが、ロシアと欧州の「戦争」に言及することは避けている。
シンクタンク「欧州外交評議会(ECFR)」では、NATO諸国の対応の食い違いが露呈しており、これはすでにプーチン大統領の大きな勝利だと指摘。これに勢いを得て、ロシアがNATOを潰すために、より破壊的な活動を展開する可能性があると警告している。
なお、ポーランドで9月10日から11日にかけて発生したドローンによる領空侵犯事件では、ドローンがロシアのものであったことをロシア側も認めているが、インターネット上ではロシアとベラルーシによる大規模な偽情報攻撃が同時に展開されたことが偽情報分析機関「RES FUTURA」などの調査で判明している。ドローンはウクライナやNATOのものだとする大量のメッセージが流布されてSNSが飽和状態となり、世論に一定の影響を及ぼしたという。ロシア側の狙いは、ポーランドとウクライナの歴史的確執なども強調しつつ、ポーランド世論をウクライナ支援から離反させることにあるとみられている。「RES FUTURA」はまた、NATOによるドローン撃退の試みが成果をあげていない中で、欧州世論がNATOの有用性や防衛費増強の必要性を疑問視するように誘導することもロシアの情報戦の狙いだと判断している。