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2035年のエンジン車販売禁止、最終採択が延期に

欧州連合(EU)市場で2035年よりエンジン車新車販売を禁止する方針が3月7日にEU理事会で最終的に採択される見通しだったが、土壇場になってドイツ政府が異議を唱え、理事会での決議が急遽、無期延期されるという異例の事態が発生した。この方針についてはすでに昨年10月に欧州議会とEU理事会の間で合意が成立し、去る2月半ばに欧州議会で承認済みで、理事会の承認を待つばかりとなっていた。
EU加盟国のうちでは、イタリアとポーランドが反対の立場を表明し、ブルガリアも棄権を予告していたが、理事会の決議は特定多数決で行われるため、これら3ヵ国のみでは承認を阻止できない。しかし、これに加えてドイツが不支持となった場合には承認が成立しなくなるため、加盟国の大使級会合で延期が決まった。ドイツやイタリアの要求により、2035年以後の新車販売をEVに限定せず、合成燃料を用いるエンジン車も許可する可能性について検討することが昨秋に決まっており、ドイツは欧州委員会が合成燃料の利用可能性に関する提案をまだ行っていないことを異議の理由としてあげた。
ただし、これにはドイツ国内の政治力学が関わっている。連立政権の一角を担う自由民主党(FDP)が合成燃料を代替燃料として利用することでエンジン車の延命を図ることを主張し、圧力を強めている。FDPは州議会選挙での敗北が続き、政権内での存在感が薄れているため、同党所属のリントナー財務相やウィッシング運輸相は党勢の巻き返しを狙って、この問題で強硬な態度を打ち出している。なお、運輸相は3月3日に、2021年の連立合意で取り決められた鉄道網の改善よりも、道路網の強化を優先する方針を提案し、連立相手の緑の党の反発を招いており、気候中立政策をめぐる両党間の亀裂が深まっている。
自動車業界からは、すでにエンジン車の2035年の廃止を織り込み済みで、電動化の促進に向かっており、今になって方針が揺れ動くのはかえって迷惑だとの反応が寄せられている。仮に合成燃料を利用することでエンジン車の販売継続が許可された場合でも、エンジン車とEVの双方を並行して開発・生産することはポートフォリオ管理を複雑にするため、EVに投資を集中するほうが得策だとの見方も表明されている。

KSM News and Research