バルニエ首相は12月2日、下院における社会保障会計予算法案の審議で、採択強行の手段である通称「49.3」の発動を宣言した。規定に基づいて、野党勢力が同日中に内閣不信任案を提出した。左派連合と極右RNが揃って不信任案に賛成票を投じる見込みで、4日に予定される投票を経て、バルニエ内閣は瓦解することがほぼ確実になった。
「49.3」は憲法上の規定で、政府はこれを発動することで、法案を採決なしに採択させることができる。ただし、内閣不信任案が提出され、これが可決されると、内閣は瓦解し、当該法案の採択は白紙に戻される。バルニエ内閣は議会で過半数を保有しておらず、予算諸法案の国会審議は、各方面からの抵抗を受けて難航していた。「49.3」発動に伴う不信任案を乗り切るには、極右RNの協力(左派連合が提出する不信任案に相乗りしない)を取り付けるのが不可欠だったが、RNは、「購買力をそぐ措置には賛成しない」という原則を掲げて、一連の措置を削除するよう要求して譲らず、最終的に、左派連合の不信任案に投票する方針を固めた。
予算諸法が成立しないまま年を超える場合には、特別法の制定を通じて、2024年予算諸法の適用を継続するという手段がある。ただ、その場合には、予算諸法を通じなければ定められない措置が軒並み不成立ということになり、国民に不利益が生じることにもなる。政府はその例として、所得税課税最低限等のインフレ率並み改定がなされないことによる実質増税の規模を30億ユーロなどとする試算を示していた。このほか、農民向け支援措置や、公務員給与関連の措置も実行されないままとなり、大手企業向けの臨時特別課税といった措置も導入されなくなる。
極右RNと、左派連合のうち最大勢力である「不服従のフランス(LFI)」は、この事態に至った責任はマクロン大統領にあるとして、大統領に辞任を要求している。ただ、左派連合のうち、社会党などLFI以外の勢力の間には、LFIから距離を置いて、旧与党や共和党(保守)など「共和国派」と、不信任案の採択に今後は応じないことを約束し、国会議事運営における発言権を確保する方向で合意を結ぼうとする動きがある。これが実現すれば、次期内閣は、運営が困難なのは相変わらずだが、より安定的な基盤を確保できる可能性がある。マクロン大統領が既に次期首相候補の人選に着手しているとの報道もあり、バルニエ首相指名時にも候補に挙がったカズヌーブ元首相(元社会党)などの名前も取りざたされているという。