トゥールとオルレアンのちょうど中間点にあるブロワはロワール川の右岸を中心に発展した街だ。古城めぐりの拠点として知られているが、街は案外知られていない。
街のシンボルでもあるブロワ城は鉄道でのアクセスよく、駅から5分ほど歩くとすぐに高台にそびえる城が見えてくる。ルイ12世からアンリ4世まで7人の王、10人の王妃が住み、フランス歴史の舞台となった城である。その他にも数々の美術館、教会があり、歴史、芸術都市として魅力あふれる街だ。
城の中庭にはいると13世紀から17世紀にわたって増築されていった4つの建物はゴチック、フランボワイヤン、ルネッサンス、クラシックの建築様式に対応し、いわばフランスの建築史がひと目で見渡せる。内部の大半は19世紀にフェリックス・デユバンにより修復され、ルネッサンスの装飾を基本にしながら19世紀のフィルターを通して再現させた。
宗教戦争をはじめ数々の歴史的事件の舞台となった。特にカトリックの狂信派であったギーズ公がアンリ3世により暗殺されたのは有名で、三階の国王の居室で起こったとされている。王妃の居室では、3人の王の母后で摂政として君臨したカトリーヌ・ド・メディシスが70歳で亡くなった。
城館の中のルイ12世翼の一部が美術館になっており、19世紀までのクラシック絵画中心に展示されている。近年整備されたテラスからはロワール河、町を見下ろせ、その眺望は素晴らしい。城の外側広場の反対側には半年しか開いていないが、19世紀に一世を風靡した魔術師ロベール・ウダンの世界を紹介しているメゾンがある。
さて、街は起伏があり階段や坂道が多く、なかなか情緒豊かだ。第二次世界大戦中に旧市街の一部が爆弾で破壊したが、その痕跡はほとんど感じられず、中世的な佇まいを感じさせる地区や、ルネッサンス様式の邸宅がある通りが残されている。
城の他にも様々なスポットがあるが、中でも2013年にオープンしたアートセンター、ドゥート財団はユニークだ。
NYではじまった前衛芸術運動であるフルクサスの作品を核に、挑発的、遊戯的な作品300点あまりが元学校の建物に展示されている。60年台にフルクサス運動に参加し、黒地に手書きの白い文字のメッセージで有名なフランス現代アーティストであるベンことベン・ヴォーティエが集めた作品やミラノのムディマ財団等からのコレクションを中心に構成されている。ドゥートとは疑いや疑問を意味する仏語であるが、アートとは疑問を投げかけることが出発点であるというベンの考え方からきている。入り口の建物にベンの様々な質問が所狭しとして掲示されている(そういえば街のあちこちにもストリートアート的に白文字の彼の質問を目にする。)作品はデュシャン、ケージ、ボイス、ナムジュン・パイクなどという錚々たる面々やドイツのフォステルやオノ・ヨーコ、日本の数人のアーティストまで世界中から集められた作品が2階にわたって展示されている。フルクサスを超えて、現代アートの源ともいえる貴重な作品も多く、興味深い構成になっている。美術学校にもなっているので学生も多い。1階はベンがデザインしたカフェになっているので、子供づれでも気軽に訪れるようなスポットになっている。
とにかくブロワはあまり観光客が押し寄せてくるような街でないだけに、落ち着ける。パリから日帰りでも行けるが、ロワール河沿いにサイクリングなどしてのんびりしたい方は是非宿泊をして街を味わっていただきたい。