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いつもとなりに、フロマージュ 夏編②

一口にブルーチーズと言っても、マイルドなものから刺激的なものまでさまざま。
一口にブルーチーズと言っても、マイルドなものから刺激的なものまでさまざま。

パリのチーズ屋さんに勤めるプロに旬のチーズとその味わい方をお聞きするこの連載。最終回となる「夏編②」では、夏だからこそ味わいたい、フレッシュチーズと青カビチーズについて紹介します。過去の記事とともに読めば、チーズの基本がわかること間違いなしです!

□本連載の過去の記事はこちら↓
いつもとなりに、フロマージュ 秋・冬編
いつもとなりに、フロマージュ 春編
いつもとなりに、フロマージュ 夏編①
役立つ! チーズの基本情報


フランス産フレッシュチーズ、フロマージュ・ブラン

 パリの夏は東京ほど暑さが厳しくないため、一般に、クーラーがない家が多いです。バスやメトロ、レストランでさえ空調完備されていないことが多く、数日猛暑が続いただけで大騒ぎになります。私の働くフロマジュリーは店内全体が大きな冷蔵庫のようになっているので、秋冬は防寒必須で一日中寒さが身に応えますが、夏だけは快適な職場環境で、お客様には「うわぁ〜涼しい!」と必ず大喜びされます。そんな暑い日にはモッツァレッラやブッラータ、フェタといったフレッシュチーズがまさに飛ぶように売れます。

フロマージュ・ブラン2種、カンパーニュ(左下)とリス(右下)。中央下がフェセル・ド・シェーヴルから作ったセルヴェル・ド・カニュ。
フロマージュ・ブラン2種、カンパーニュ(左下)とリス(右下)。中央下がフェセル・ド・シェーヴルから作ったセルヴェル・ド・カニュ。

 イタリアほど種類豊富ではありませんが、フランスにもフレッシュチーズ(Fromage frais)はもちろんあって、その代表がフロマージュ・ブラン(Fromage blanc)です。見た目はヨーグルトのようですが、水分がやや少ないのでヨーグルトよりも濃厚でたんぱく質が豊富、酸味は穏やか。フランスではヨーグルト製造に使える種菌はブルガリア菌とサーモフィラス菌という2種類の乳酸菌のみであり、重量中の乳酸菌数、発酵後の熱処理は禁止、など厳密な規格があります。一方フロマージュ・ブランはチーズと同様に乳酸菌と凝乳酵素(乳酸菌だけの場合も有。)による発酵でミルクを固め、軽く水切りしただけの熟成させないフレッシュチーズなのです。水切り後そのままの状態のものを「カンパーニュ campagne」、フェセルと呼ばれる水切りかごに入れて包装されたものを「フェセル faisselle」、撹拌(かくはん)してヨーグルトのように滑らかな口当たりにしたものを「リス lisse」、生クリームを加えたものを「プティ・スイス petit-suisse」と言います。どれを選ぶかは好みですが、フランスの定番デザート、フロマージュ・ブランにジャムやハチミツをかけたものは大抵リスで、一番なじみ深いかもしれません。

 デザート以外にもフロマージュ・ブランを使ったレシピはたくさんあり、夏に私がお勧めなのはリヨン発祥のセルヴェル・ド・カニュ(Cervelle de canut)です。フェセルに細かく切ったシブレットやパセリのようなハーブ、エシャロットと少しのニンニクみじん切り、ワインヴィネガーとオリーヴオイルを混ぜ、塩コショウで味付けするだけ。山羊乳のフェセル・ド・シェーヴルを使うのが本流ですが、牛乳のフェセルでも代用できます。バゲットにたっぷりつけて白ワインやロゼと、青空を見ながらのアペリティフに最高です。


ブルーか、ロックフォールか、二つの青カビチーズ

 フランスでは青カビタイプを大きく二つに分けてロックフォール(Roquefort)、それ以外はまとめてブルー(Bleu)と呼ぶ傾向があります。ロックフォールは羊のミルクから作られ、南部アヴェロン県にある洞窟で熟成されるフランス最古のチーズのひとつで、AOC第一号の名実ともにフランスを代表する存在です。フランスで働くまでロックフォールも当然ブルーと呼ぶと思っていた私は、この呼び方の違いについて知ったときにロックフォールってフランスでは本当に別格で唯一無二の存在なんだと感動に近い驚きを受けました。ロックフォールはピリピリっと舌を刺激する青カビの強さもトップクラスですので、実はフランス人でも好みが分かれるところ。強すぎて苦手だという方はフルム・ダンベール(Fourme d’Ambert)やブルー・ドーベルニュ(Bleu d’Auvergne)のようなオーベルニュ地方のブルーを試してみてください。比較的マイルドですし、牛乳製で価格がお手頃なのでお料理にも躊躇なく使えます。

 青カビチーズは全体的に塩味が強いので、ハチミツのように凝縮した甘みがあるものと相性が抜群で、グンと食べやすくなります。秋なら洋梨やイチジクと、冬なら蒸したさつまいもに乗せてもよし、かぼちゃのポタージュにひとかけ入れてもよし、干し柿と食べてもおいしいです。少し余った青カビチーズがあるときは、生クリームと一緒に煮詰めて赤身肉のソースにしたら赤ワインがすすみます。夏だったらよく冷えた甘口ワインをお供にするのがシンプルで私は好きです。そしてこれは内緒にしたいくらいおいしいのですが、バニラアイスクリームと青カビチーズの組み合わせ! ほんの少し入れると新しい味に出会えるので、アイスがお好きな方はこの夏ぜひやってみてください。

 

 3編にわたってつづった連載は、これで最終回。チーズの魅力は到底書ききれませんでしたが、チーズへの関心が深まった、もしくは興味を持つきっかけになったとしたら幸いです。ありがとうございました。

この記事の執筆者

犬田ゆり INUTA Yuri

栄養学を学んでいた大学時代、語学留学先のサヴォワでボーフォールに出会ったことをきっかけにチーズの世界へ。卒業後(株)フェルミエ入社。作り手の顔が見える、農家製の手作りチーズを日本に届けるという本間るみ子氏のこだわりに大きな影響を受け、生産者と消費者を繋ぐチーズ屋の仕事に情熱を捧げるようになる。フランスで生活したいというかねてからの願いを胸にワーキングホリデーを利用し、パリ17区地元密着型の老舗フロマジュリーFromagerie Martine Duboisで修行。その後労働ビザを取得し2014年に再渡仏。現在は子育てとのバランスを探りながらも同店の店頭に立ち続けている。
Instagram@YURI_INT

店舗情報
Fromagerie Martine DUBOIS 80, rue de Tocqueville 75017 Paris

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