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いつもとなりに、フロマージュ 夏編①

夏の間、豊富な草花を求めて標高の高い山の上で家畜たちを放牧することをアルパージュ(alpage)という。
澄んだ空気の中新鮮な牧草を食む牛たちからは、良質なミルクが得られる。

パリのチーズ屋さんに勤めるプロに旬のチーズとその味わい方をお聞きするこの連載。「夏編」となる今回は、ハード、フレッシュ、青カビの3種を取り上げ、2回に分けて紹介します。チーズの基本をまとめた#役立つ!チーズの基本情報 とともにご覧ください。

□本連載の過去の記事はこちら↓
いつもとなりに、フロマージュ 秋・冬編
いつもとなりに、フロマージュ 春編
役立つ! チーズの基本情報


 夏のバカンスでパリジャンが一斉にパリからいなくなるこの季節、日本では考えられませんが、商店やレストランが2〜4週間の夏休みをとることはパリではよくあることです。食欲のでない夏はそもそもチーズの消費量が減るので、フロマジュリーもしかり。ですが火を使う料理をしたくない時期にこそ、そのまま食べられるチーズは重宝する食材でもあります。今回は、そんな夏の時期に製造最盛期を迎える山のチーズ、そして暑い日にお勧めのチーズたちを取り上げます。


トムってどんなチーズ?

サヴォワ県の県庁所在地、シャンベリーにある地下トンネルを利用したカーヴで熟成されるトムたち。
サヴォワ県の県庁所在地、シャンベリーにある地下トンネルを利用したカーヴで熟成されるトムたち。

 アルプス山脈を望むフランス東部サヴォワ地方、そしてスペイン国境ピレネー山麓の山間部では、夏の間豊富な草花を求めて高地放牧が行われ、チーズ作りの最盛期を迎えています。特に身近なのがトム“tomme / tome”と呼ばれるチーズたち。トムとは小型〜中型の丸い形をしたセミハード〜ソフトタイプの総称で、牛乳、羊乳、山羊乳、それぞれの乳から作られ、時には2種類のミルクを混乳することもあります。フランス各地にその地方のトムが存在し、とりわけピレネーとサヴォワには、谷の数だけトムがあると言われるほど!

 なかでもピレネーで有名なのが羊乳のトム、オッソー・イラティ(Ossau-Iraty)です。フランス南西部では伝統的に羊が多く飼育され、チーズが作られてきました。ピレネー・アトランティック県一帯に存在したそんな名もない無数のトム・ド・ブルビをまとめ上げ、形、製造や熟成方法をある程度統一させてAOPを取得したのがこのオッソー・イラティなのです。チーズの名前は生産地に由来することがほとんどなのですが、これも例に漏れず、主産地であるベアルン地方のオッソーの谷とバスク地方のイラティの森を合わせたもの。羊乳ならではの濃厚なミルクの甘さと力強さがあり、私は初めて食べたときにその特徴的な響きの名称とともに強烈な印象を受け、しばらくやみつきになりました。

 オッソー・イラティを含むピレネーのトムは大量生産化が進み、より食べやすくやさしい味わいのチーズが多く出回っています。そんな時代にあって、酪農から製造まで一貫して自分たちで行う農家製(fermier)のチーズは貴重な存在です。夏の間に放牧された羊たちのミルクから作られるトムが、熟成を経て並び始める秋から冬にかけて、チーズ屋さんで « fermier »の文字を見かけたらぜひ味わってみてください。

谷の数だけあるとも言われるサヴォワ地方のトムたち。写真は5種類のトムだが、外観はそっくり。
谷の数だけあるとも言われるサヴォワ地方のトムたち。写真は5種類のトムだが、外観はそっくり。

 一方サヴォワ地方のトムは多くが牛乳製で、総称してトム・ド・サヴォワ(Tomme de Savoie)と呼ばれます。ゴツゴツとした表皮に覆われた粗野な外観とは裏腹に、味の主張は控えめでやさしい。硬くもなく柔らかくもない生地なのでカットしやすく、キューブ状に切ってそのままおやつやアペリティフでつまむのにぴったりですし、ナッツとともにグリーンサラダに入れるのもお勧めです。同じサヴォワ圏で作られる大型のボーフォールのような華やかさはありませんが、地元の人が毎日食べるのは高価なボーフォールではなく庶民的なトム。私が学生時代ホームステイしていたサヴォワの家庭でも、食後のチーズプラトーには必ずトムがありました。


フランス人に愛される秘訣

ルブロションの型詰めの際に、トレーサビリティーが記載されたカゼインマークをつけているところ。このマークが緑色だと農家製の証。ひとつの群れの牛から、1日2回の搾乳後、まだ温かいミルクからすぐにチーズが作られる。
ルブロションの型詰めの際に、トレーサビリティーが記載されたカゼインマークをつけているところ。このマークが緑色だと農家製の証。ひとつの群れの牛から、1日2回の搾乳後、まだ温かいミルクからすぐにチーズが作られる。

 もう一つサヴォワ地方で欠かせないチーズといえば、ルブロション(Reblochon)です。切り口からとろけ出すクリーミーさがフランス人の心を掴んで離さず、46種類あるAOPチーズの中で常に生産量トップ3に入る人気者です。ジャガイモにルブロションをたっぷりのせてグリルするタルティフレット(Tartiflette)という郷土料理があまりにも有名なので冬が旬だと思われがちですが、トム・ド・サヴォワよりもだいぶ小型で熟成が早く進むので、夏季放牧中のストレスフリーな牛のミルクから作られるルブロションは、夏から秋にかけて食べ頃を迎えます。

 サヴォワ地方と並ぶチーズの一大産地、中央山地オーベルニュ地方のカンタル(Cantal)とサン・ネクテール(Saint-Nectaire)もまた、フランスではファンが多いチーズです。これらのセミハードタイプは共通して見た目が地味ですが、良心的な価格、他の食材とも合わせやすい万能さ、何より毎日食べても飽きない味わいを持ち合わせています。チーズを常食するこの国では、こういう素朴な魅力がみんなから長く愛される所以なのでしょう。

 セミハードタイプの表皮は、フランスでも食べる派と食べない派に分かれます。ルブロションのように小型で皮が薄いものは食べますが、トムのように表皮が厚く硬いものは外すのが一般的ですし、衛生的にも食べないほうがよいでしょう。ただカンタルの皮は、一昔前はスープに入れて食べていたという現地のエピソードをよく聞きますし、好んで皮側を指定して買われるお客様もいらっしゃいます。

*「いつもとなりに、フロマージュ 夏編②」では、フレッシュチーズと青カビチーズを紹介します。7月12日(水)公開です。

この記事の執筆者

犬田ゆり INUTA Yuri

栄養学を学んでいた大学時代、語学留学先のサヴォワでボーフォールに出会ったことをきっかけにチーズの世界へ。卒業後(株)フェルミエ入社。作り手の顔が見える、農家製の手作りチーズを日本に届けるという本間るみ子氏のこだわりに大きな影響を受け、生産者と消費者を繋ぐチーズ屋の仕事に情熱を捧げるようになる。フランスで生活したいというかねてからの願いを胸にワーキングホリデーを利用し、パリ17区地元密着型の老舗フロマジュリーFromagerie Martine Duboisで修行。その後労働ビザを取得し2014年に再渡仏。現在は子育てとのバランスを探りながらも同店の店頭に立ち続けている。
Instagram@YURI_INT

店舗情報
Fromagerie Martine DUBOIS 80, rue de Tocqueville 75017 Paris

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