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中世にタイムトリップ
城塞都市カルカッソンヌの秘密

城塞都市の中にあるお城、コンタル城 Château Comtal。
城塞都市の中にあるお城、コンタル城 Château Comtal。

□本連載の過去の記事はこちら↓
バラ色の街トゥールーズへようこそ! 建築から見る街の魅力



 フランスの南西地方にある「カルカッソンヌ Carcassonne」は、ヨーロッパ最大の城塞都市でありユネスコ世界遺産にも登録されています。「カルカッソンヌを見ずして死ぬな」と言われるほど美しく人気の観光地です。トゥールーズ Toulouseの中心から、車や電車で1時間ほどで行けるので、トゥールーズを訪れた際は、少し足を延ばして観光するのにお勧めです。

 このカルカッソンヌには、たくさんの魅力と秘密があります。建築の視点も踏まえながらご紹介していきます。


中世時代にタイムトリップ

 カルカッソンヌの歴史は、なんと、ローマ時代の紀元前800年頃から始まります。2500年以上の長い歴史を経て、この美しい城塞都市が構築されました。お城が初めて建設されたのは11世紀で、現在の城塞都市のような姿になったのは13世紀のことです。全長約3 kmの二重の城壁に囲まれたこの街は、一歩足を踏み入れただけで、中世にタイムトリップしたかのような気分が味わえます。さらに、この城塞都市には今でも普通に暮らしている人がいます。お城の街の中に住むなんて、なんだかファンタジーの世界みたいですよね。


最後の1匹の豚

カルカッソンヌという名前の由来になったダム・カルカスが豚を抱えている絵
カルカッソンヌという名前の由来になったダム・カルカスが豚を抱えている絵。

 さて、なぜこの街は「カルカッソンヌ」と呼ばれているのでしょうか。実はこの名前には伝説があります。その昔、ダム・カルカス Dame Carcasという人がこのお城のトップだったときのこと、カール大帝はこの街を攻略しようと長い間包囲戦にて攻めていました。そして6年目に入ったとき、城壁の周りを全て囲まれてしまっていたので、街の人は城壁の外に出ることができず、食料不足で多くの人が死んでいきました。もうこのままでは、この街は侵略されてしまう……という状況の中、ダム・カルカスは1つの計画を思いついたのです。残っている僅かな小麦を、最後の豚にたらふく食べさせ、豚が太ったら、街で一番高い塔から投げ捨てました。すると、城壁の外にいた軍隊は「この街には、太った豚を捨てるほど食料が豊富にあるのか」と思い、攻撃を続けるのをやめました。この街を守ることができたダム・カルカスは、自分の計画の勝利を祝って、街中の鐘(「(鐘)を鳴らす」はフランス語で sonner ソネ)を鳴らしたそうです。それを聞き、「カルカス・ソンヌ Carcas sonne」と叫んだことから、この街がカルカッソンヌ Carcassonneと呼ばれるようになったのだとか。


敵から守るための多くの仕掛け

 カルカッソンヌの城塞都市は、要塞化された設計により敵からの攻撃に備えていました。

1. 城壁 Les fortifications
 3 kmにも及ぶ城壁は、二重構造になっており、敵からの攻撃を防ぐために重要な役割を果たしました。城壁は、厚い石の壁と塔で構成され、兵士は城壁上を歩いて見張りをしていました。また、この城壁にはところどころに細長い隙間があります。これは、侵略者を弓矢で射るための隙間です。この隙間は、城壁の外側から内側に広がっていて、外側からは中の様子が見えないけれども、内側の兵士は、広い角度で弓矢を撃つことができる仕掛けになっています。

2. 城門 Les portes du château
 城門は、城内に入るための唯一の出入り口であり、敵からの攻撃を受ける可能性が高かったため、重要な守備点でした。そのため、門の上部にはわずかな隙間が設計されていて、そこから石などを落として敵の侵入を防ぐという仕掛けがあります。

3. 堀 Les douves
 これは日本のお城と同じ工夫です。城壁の周りには、深い堀が掘られており、敵が城壁に接近する前に越えなければならない障壁となっていました。

4. 内部の階段 Les escaliers intérieurs
 城壁の内部には、非常に狭い階段があり、敵が攻めてきた場合でも、城壁上の兵士たちは内側に隠れることができました。

城壁内の狭いらせん階段。
城壁内の狭いらせん階段。


5. 城壁の通路床にある鉄格子 Les grilles en fer
 城壁を歩いて周っていると、ところどころ足元に鉄の格子がはめられていて、下が筒抜けになっている所があります。これは、城壁上から、下にいる敵に対して、格子を通して熱湯や熱々の油をかけて防御をしていたからです。いろいろな角度からお城を守る仕掛けが組み込まれています。

二階の窓から汚物を外へ投げ捨てられる構造の古い家(道の中心が排水溝となっている)。
二階の窓から汚物を外へ投げ捨てられる構造の古い家(道の中心が排水溝となっている)。


6. 円筒型の塔 Les tours cylindriques
 美しいフォルムをしている城の塔は直方体ではなく円筒です。なぜ円筒型なのでしょうか。これも防御機能の工夫のひとつです。直方体の場合、角が死角をつくってしまいますが、円筒型であれば広い視野で敵を確認することができます。この美しいお城の形は、実用性からきているのです。


お城の中に建っている美しい大聖堂

 カルカッソンヌ城壁都市の中には、サン=ナゼール大聖堂(Basilique Saint-Nazaire-et-Saint-Celse de Carcassonne)という大聖堂があります。13世紀に建てられ、ロマネスク様式とゴシック様式が融合した建築様式が特徴的で、教会の外装は重厚感を感じられるロマネスク様式で、内部は天井が高くゴシック様式になっています。特にステンドグラスは圧巻の美しさで、バラ窓は、サン=ナゼール教会の中でも印象的なもののひとつです。また、15世紀のパイプオルガンもあり、見どころが多い教会です。


郷土料理カスレ

カルカッソンヌの名物カスレ。
カルカッソンヌの名物カスレ。

 カルカッソンヌに来たらぜひ食べてもらいたいもののひとつが「カスレ cassoulet」です。ここの郷土料理で、豆とソーセージや鴨肉などを、鴨の油と一緒にオーブンでじっくり煮込んだ料理です。ハイカロリーな食べ物ですが、おいしいのでぜひ味わってみてください。

 また、カスレの中に入っている鴨肉は、南西フランスでよく食べられる食材です。このエリアはおいしい鴨肉が手に入るので、ぜひカスレ以外にも、マグレ・ド・カナル magret de canard や鴨のコンフィ confit de canardといった料理も味わってみてください。


ワインも有名?

 カルカッソンヌは城壁都市で有名ですが、実はこの周辺は、ラングドック Languedoc地方と呼ばれるワイン生産地域であり、優れたワインが生産されています。ミネルヴォワ Minervoisやスパークリングワインで有名なリムー Limouxなどのワイン生産地があり、多くのワイナリーがあります。カルカッソンヌを訪れた際には、周辺地域のワイナリーを巡って、地元のワインを味わってみるのもお勧めです。

 中世時代を味わえる城塞都市カルカッソンヌ、古くからの知恵による仕掛けと他では見ることのできない景色、ぜひご自身の目でその魅力を実感してみてください。

この記事の執筆者

コロデル あい COLLODEL Ai

トゥールーズ在住・千葉県出身。日本の一級建築士。たまたま出会った現在の旦那が、南西フランス出身のフランス人であったことをきっかけに、南西フランスの暮らしの魅力を知る。東京でサラリーマンをしていたが、COVID-19をきっかけに今後の働き方や暮らし方を見つめ直し、渡仏を決定。現在は、仏語を学びながら建築の仕事を続けている。

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