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アルザスの冬のお料理

アルザスの伝統料理のレストラン「アンシエンヌ・ドウゥアンヌ(Ancienne douane)」のシュークルート。ちなみに、アルザスの伝統料理を扱うレストランのことを総称してヴィンスチューブまたはヴィスチューブと言います。


アルザスへようこそ

 フランスの極東に位置するアルザス地域圏は、パリの東駅からTGVで2時間弱ほどの所にあるストラスブールを首都とする地域で、ストラスブールを中心とするバラン県Bas-RhinとコルマールColmarやミュールーズMulhouseを要するオラン県Haut-Rhinの二つの県で構成されているとても小さな地域圏です。ライン川を境にドイツと国境を接するこの地域は、歴史上約7世紀もの間、神聖ローマ帝国の一部で、ドイツ文化圏に属する土地でした。17世紀の30年戦争を経て徐々にフランス王国に併合されていく中でフランスの文化が入り込み、二つの文化が入り混じる独特な文化が醸成された土地です。中欧やドイツ文化圏で盛大に祝うクリスマスシーズンの伝統がアルザスに多く残っているのもそういった歴史的背景から来ています。
 現代史においては、普仏戦争や二つの世界大戦の度に国が変わり、非常につらい経験を強いられたことでも知られています。このつらい歴史がアルザス地方に生きる人々が土地に根付いたアイデンティティを強く意識する一つの要因にもなっていて、現在でもフランスの他地域とは相容れない歴史観や地方の伝統文化への思い入れが強く残っています。


美食の国、アルザス

 二つの県で構成されたアルザスはとても小さな地域でありながら豊かな地形を誇り、西のヴォージュ山脈から東のライン川に至る平野まで、酪農や果樹・ぶどうの栽培、穀物その他様々な農作物の栽培が盛んで地産地消の意識も高いです。そんなアルザスにはミシュランの星付きレストランが33軒(二つ星が7軒、一つ星が26軒。2022年現在)もあることから、美食の国とも言われています。
 さらに、2023年3月6日に予定されているミシュランガイドの発表セレモニーの地にストラスブールが選ばれ、アルザス地域全体でアルザスの美食、郷土料理のプロモーションが展開されています。
 そこで今回は、季節を通してアルザスの魅力をご紹介するにあたり、冬の郷土料理にフォーカスしてこの土地のご紹介をしていきたいと思います。


代表的なアルザスの郷土料理:シュークルート

 皆さん、シュークルートをご存知でしょうか。アルザスを代表する郷土料理の一つです。ピンとこない方にはもしかしたらザワークラウトと言うとわかるかもしれません。これはドイツ語の ”Sauerkraut” ですね。アルザス語では、シュークルートは”Sürkrüt”となります。アルザス語はドイツの南の地方言語アレマン語系の方言で、フランスでは外国語派生の地方言語になります。こういったこともアルザスがドイツ文化圏だった過去を如実に表しています。sürが酸っぱい、krütがキャベツと言う意味で、ドイツ語のザワークラウトも同じ意味の構成の単語です。 フランス語のシュークルート “choucroute” は、”Sürkrüt” をフランス語の音声に合わせた表記で、一般的になったものです。フランス語のキャベツを表す単語、シュー “chou” とは関係ありません。

 シュークルートはこの「酸っぱいキャベツ」とシャルキュトリーと呼ばれる、ソーセージやベーコンなどの豚肉の加工食品と一緒に調理された郷土料理で、「アルザスの5つのC」の一つを担う代表的なアルザスのシンボルでもあります。

 「アルザスの5つのC」とはCで始まるアルザスを代表する物のことで、以下の5つを指します。
① Cathédrale(カテドラル。ストラスブール大聖堂のこと)
② Colombages(コロンバージュ。木骨造のアルザス伝統家屋のこと)
③ Coiffe(コワフ(髪飾)。民族衣装の女性の大きなリボン状の髪飾りのこと)
➃ Cigogne(シゴーニュ。コウノトリの事。アルザスのマスコット的な鳥)
⑤ Choucroute(シュークルート)

 さて、この「酸っぱいキャベツ」ですが、酢漬けではありません。塩漬けによる乳酸発酵によって酸味の付いた、いわばお漬物なのです。
 千切りの状態で塩漬けにされ、それ自体もシュークルートと言いますし、前述のように調理されてお料理になったものもシュークルートと言います。付け合わせとして供されることもあります。もともとは葉野菜のない冬期の為の食べ物でした。また、お料理にするには煮込まねばならないことから、どちらかと言えば冬のお料理としてのイメージがあるので冬のお料理としてご紹介することにしましたが、保存食ですし一年中食べることが出来ます。

 大まかな作り方は以下の通りです。
それぞれの家庭、レストランにそれぞれの作り方があります。
① 鍋にきざんだ玉ねぎを入れ、鴨油など油で炒める。
② 白ワインを加える。
③ シュークルートを加えてよく混ぜる。(あらかじめ水で洗う。よく漬かっていて酸味が強い場合は沸騰したお湯に入れて洗い、水を切る)
➃ きざんだニンニク、ねずの実、丁子、胡椒、ローリエなどスパイスやハーブとブイヨンを入れる。
⑤ 皮をむいたジャガイモ、シャルキュトリー(塩が強い場合は予め塩抜きをする)を加えて1時間半~2時間煮込む。(ソーセージは皮が破裂するので後で加える)
⑥ 食べる15分前位にソーセージを加える。
⑦ 盛り付けて完成。マスタードや西洋わさびレフォールを薬味に食べる。


貧しいお料理?

 安定した食料調達は作物の少ない冬季を乗り切るのにはもちろんのこと、自然災害や戦争、疫病などによる飢饉に備える上で政治・行政の大きな課題でした。食品保存はそういった課題を解決する手立てとして非常に重要な鍵でした。さまざまな食品保存の方法で、発酵野菜というのはかなり歴史が古く、紀元前3世紀頃の中国の記述が最古と言われています。アルザスではキャベツは古くから栽培されていた野菜の一つで、現存する最も古いシュークルートに関する記述は16世紀です。ただしシュークルートの起源が直接に中国のそれから来ているかは諸説あります。
アルザスでは19世紀末まで塩漬け発酵野菜は貧しい料理のイメージがあったそうで、17世紀のはじめまで「酸っぱい葉物」と言う呼び名はそれほど浸透しておらず、「コンポスト(堆肥)」を表す単語と同じ語源の言葉や、お酢やシロップ、アルコールなどに漬け込む「コンポート」を指す言葉で表現していたそうです。

 ただし今では、そんな昔のイメージとは違いシュークルートはやむを得ない時の為の食べ物ではありませんし、貧しいイメージからは程遠く、アルザスを代表する5つのCに入るほどの花形郷土料理です。そのうえ、低カロリーでビタミンB郡、C、ナイアシン、ミネラルなども含んだ健康食品です。貧しいだなんてとんでもないのです!


シュークルートの製造を見てみたい!
シュークルートの首都、クローテルゲルスハイム村へ

 シュークルートを改めて見つめ直していたら、以前から見学してみたかったシュークルートの製造に是が非でも出かけたくなりました。そこで友人おススメのシュークルートの農家、アデスさんの所にアポを取りました。ちなみに、シュークルートを製造する拠点のことをシュークルートリーと言います。製造の季節はとうに過ぎていましたが、こちらの急な都合に合わせて製造工程の案内を丁寧にしてくださいました。
 1936年創業の四代続く家族経営のシュークルートリーアデスさんは、ストラスブールStrasbourgから南西に約20キロメートルの所にあるクローテルゲルスハイム村にあります。人口約1700人のこの小さな村ひとつでフランス全体のシュークルート用のキャベツの生産量の2割以上を担っていることから、「シュークルートの首都」との異名を取っています。

キャベツは世界に数百種類もあるそうですが、アデスさんの所では、3~4種のアルザスの品種を栽培しているそうです。特徴としては、楕円形で葉が薄く詰まっていて優しい味がする品種で、かなりの大玉です。それを収穫時期の違いによって時期をずらして育てていきます。4月中旬から6月中旬までが作付けの期間で、7月初旬から11月中旬までが収穫の時期です。「新キャベツ」はアルザスでは夏になります。この早い時期に収穫するキャベツで作る浅漬けで加熱調理せずにそのまま生でおいしいシュークルートのことを「シュークルート・ヌーヴェルChoucroute nouvelle(新シュークルート)」と言います。その後2,3週間以上漬けた通常のシュークルートはだいたい9月頃から食べられます。

 収穫後、運び込まれたキャベツは外側の葉を除去し洗浄、芯を取り除いた後は一つ一つ虫や傷んだ部分がないか目視でチェックします。手作業です。その後はスライサーで細長い千切りにし、2%の塩をまぶして発酵槽にベルトコンベヤーで運んでいきます。発酵槽に漬けたキャベツは水が抜けてシュークルートになると約半分の量になります。
 約2週間の発酵の後、年間約400トンを生産するアデスさんのキャベツは、180トンのシュークルートになるそうです。

 訪れたこの日はちょうどよく発酵したシュークルートをバケツに詰める作業をしてらっしゃいました。大きなバケツから家庭用の小さなバケツまでいろいろ揃っていて、個人客向けの小売りの直売もしています。


スターの陰に隠れたアルザスの名物、ナヴェ・サレ

 シュークルートの兄弟のような存在がナヴェ・サレNavet saléです。ナヴェNavetは蕪(かぶ)、サレsaléは塩漬けのという意味。そう、シュークルートの蕪バージョンです。(アルザス語だとシューリ・ルーヴsüeri Rüewe
 こちらもシュークルート同様に歴史は古く、16世紀前半には書物に紹介されています。
皮を剥いてスパゲティのように紐状に削り、キャベツ同様2%の塩で漬けます。キャベツと違って表皮を剥くので、1㎏のナヴェ・サレを作るのに3㎏の蕪が必要だそうです。調理はシュークルートと同様ですが味はシュークルートより優しいまろやかな味で、そのまま生で食べるのもおいしいです。
 残念ながらシュークルートの陰に隠れて存在感ゼロの「忘れられた郷土料理」になってしまい、レストランで見かけることはほぼないです。ぜひとも復権してもらいたい郷土料理ナンバーワンはナヴェ・サレです。


IGP(地理的表示保護)取得:この土地だからこのそのシュークルート

 2018年にアルザスのシュークルートはIGP(地理的表示保護)に登録されました。IGP(Indication Géographique protégée)は、産品の特徴と製造過程が産地の由来と関連付けられているものの保証を示すもので、農産物、ワイン、食料品に適用されるEU加盟国の共通認証です。アルザスの肥沃な土壌と気候にあったキャベツをキャベツ自体とその自然環境にいる乳酸菌によって発酵したものを保護したものです。他の土壌、気候で乳酸発酵してもアルザスのシュークルート「シュークルート・ダルザス」にはならないのです。

 白から黄淡色の明るい色で、軽い酸味をまとった歯ごたえのよいアルザスのシュークルート。
シュークルート・ヌーヴェルの時季に来るもよし。レストランでシャルキュトリーたっぷりのシュークルートを食べるもよし。寒い時に家でコトコト煮込んでもよし。そうそう、煮込むのが面倒な人には加熱調理までしてくれた、温めるだけでOKのシュークルートも売っています。それから魚のシュークルートもあります。アルザスにお越しの際はぜひ味わってみてください。アルザスの空気に実際に触れ、そのキャベツ畑の大地に思いを馳せて食べるシュークルートはきっと格別です。


取材協力:Choucrouterie Adès Jean-Michel & Fils, 8 Route d’Obernai, 67880 Krautergersheim

choucroute-ades

 アデスさん宅では、小売りのシュークルートやナヴェ・サレのほか、自家製のコルニッションの酢漬けもあります。また、農家なのでジャガイモなどの野菜も売っています。クローテルゲルスハイム村まで足を運べない場合は、地元の産品を専門に扱うストラスブールのスーパー、ヌーヴェル・ドウゥアンヌでも取り扱いがあるので覗いてみてください。
La Nouvelle Douane, 1A Rue du Vieux-Marché-aux-Poissons, 67000 Strasbourg
La Nouvelle Douane – Magasin de producteurs fermiers à Strasbourg

この記事の執筆者

加藤淳子 KATO Junko

東京生まれの埼玉育ち。 旅行で訪れたアルザス地方にすっかり魅了され、渡仏を決意。 居ればいるほどその魅力にどっぷりつかって、遂にはストラスブール大学にてフランス政府公認ガイドのライセンスを取得。 多様な歴史と文化を育む豊かで美しいアルザス地方を出来るだけ多くの方にご紹介したいと思っています。 アルザスと日本の文化・友好の橋渡しが出来たら、こんなに嬉しいことはありません。 インスタグラム&ツイッター随時更新中です。 リンクはホームページからご覧下さい。 ホームページ:www.alsacetour.com

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